こんにちは、コツコツです。今回も整形外科的な知識ということで、整形外科医なら頻繁に遭遇する橈骨遠位端骨折について少しお話ししたいと思います。
2パターンある橈骨遠位端骨折 〜年齢と受傷機転から〜
橈骨遠位端骨折は前腕にある2本の骨の1本である橈骨(もう1本は尺骨)が体より遠いところ(遠位)で折れた骨折のことを言います。
受傷機転で多いのは転倒して手をついての受傷です。
ここで注意したいのが年齢と、どれぐらいの外力(エネルギー)が加わって受傷したかということです。
一般的に若い人は骨が丈夫ですので低エネルギーで派手な骨折をすることは多くありません(基礎疾患がある場合は違いますが)。若い人が骨折する場合は大きなエネルギーが加わって受傷していると想像するべきです。
反対に高齢者は低エネルギーで容易に骨折します。なので少し尻餅ついたり、転倒するだけで骨折します。以前骨粗鬆症性骨折について少し述べましたが、大腿骨近位部骨折、胸腰椎椎体骨折、橈骨遠位端骨折が代表的な骨粗鬆症性骨折になります。
なので高齢者の橈骨遠位端骨折は低エネルギーでの受傷(立位からの転倒など)が多くなります。
なぜ受傷機転を想像するのか
結論から言うと手術での整復(骨を元に戻す操作)の難易度が大幅に変わるからです。
若い人の高エネルギー外傷での骨折は転位が大きく、また筋肉がしっかりしているために展開及び整復が難渋することが多いのは、整形外科医なら経験的に感じていることかと思います。そう言う場合は部分的に筋肉を少し骨から剥がしたり、整復ツールを前もって準備する(エレバトリウムやKwireなど)必要があります。しかし、骨が非常にしっかりしているので、いったん整復さえできれば、スクリューやプレートでしっかりと固定できることも特徴の一つです。
高齢者の低エネルギー外傷での骨折は比較的整復がしやすいです。理由は筋肉がそれほどしっかりしていない人が多いからです。ただし骨粗鬆症が背景にある場合は骨がとても脆いため、多骨片の関節内骨折(粉砕骨折)を来したり、手術中の整復操作でさらなる骨折をきたすこともあります。また、整復できてもスクリューがきかなかったり、術後にずれてくる場合もあります。
受傷機転によっては骨折のずれ方(転位)が変わってきますので、どの様に手をついたかを問診することも大事です。
背側転位
転位のタイプを簡単に二つに分けると背側転位と掌側転位に分かれます。
背側転位はよくフォーク様変形などと言われますよね。整形外科的な用語で言うと、コーレス骨折や背側Barton骨折が含まれると思います。
手のひらをついて受傷した時に多く見られます。
コーレス骨折の図です。Palmar(Volar)掌側、Dorsal背側です。
背側Bartonの図です。関節内骨折です。
掌側転位
掌側転位はスミス骨折や背側Barton骨折が含まれます。掌側転位は整復(その保持)が困難であり、手術になることが多いです。
手の甲をついて受傷した時に多く見られます。
スミス骨折です。あまり頻度が高くないため整復時の力のかけ方に注意が必要です。
掌側Bartonの図です。骨片が滑り落ちやすいのでButtress効果のあるプレート固定が有用です。
橈骨遠位端骨折の整復
非観血的整復
手術室で皮膚をメスで切る事なく整復することを非観血的整復と言います。外来でできる麻酔(血腫麻酔、局所麻酔、伝達麻酔、静脈麻酔など)を行なった後、骨折部を徒手的に直します。橈骨遠位端骨折で多いのは背側転位+橈屈ですので、それと反対の方向に牽引する事である程度までは改善します。この時目安となるのVolar Tilt(VT)(or Palmar tilt:PT) とRadial Inclination(RI)です。VTは正常が10度(1~21度)、RIは正常が23度(13~30度)です。これを目標に徒手的に整復します。整復後は再転位しない様に速やかにギプスあるいはシーネ固定を行います。この時看護師さんあるいは助手さんにしっかりと牽引してもっておいてもらうことが重要になります。ただし、転位の大きい骨折や粉砕骨折である場合は、非観血的整復は難しく、手術(観血的整復固定術)が必要になることが多いです。
VTの図です。掌側に10度前後傾いているのが正常です。個人差があります。
RIの図です。20度を目安にすると良いと思います。
観血的整復固定術
漢字ばかりでわかりづらいですが簡単に言うと手術をするということです。皮膚を切って直接骨を見て、道具(金属やワイヤーなど)を用いて整復する手術です。整復した後は金属のワイヤーやプレート、スクリューで固定します。色々な種類の金属があるので施設によって形状が異なると思います。最近はほとんど掌側設置プレートだと思います。骨折型によっては掌側橈側や掌側尺側だけに置くこともあります。手術は傷ができるのと、神経や血管の術中損傷のリスク、創部感染症のリスクなどはありますが、骨折を解剖学的に近い状態に治すことができます。詳しい手術方法などまた後日紹介できたらと思います。
おわりに
いかがでしたか。基本的なことしか書いていないのでまた後日色々と紹介していきたいと思います。一般的な外傷で、どこにいても遭遇すると思いますのでしっかりと理解しておきましょう。
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